大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和52年(行コ)19号 判決

昭和五二年(行コ)第一九号事件被控訴人(以下「一審原告」という)

水早義信

外二名

昭和五二年(行コ)第二二号事件控訴人(以下「一審原告」という)

宮崎重暢

外四名

以上八名訴訟代理人

諫山博

外四名

昭和五二年(行コ)第一九号事件控訴人・同第二二号事件被控訴人

(以下「一審被告」という)

福岡市長

進藤一馬

右訴訟代理人

内田松太

外三名

主文

一  原判決中、一審原告水早義信、同浜崎周良及び同西岡久隆に関する部分を取り消し、右原告三名の各請求をいずれも棄却する。

二  一審原告宮崎重暢、同牧泰司、同原田松美、同池見友幸及び同宮本守夫の各控訴をいずれも棄却する。

三  一審原告水早義信、同浜崎周良及び同西岡久隆と一審原告との間に生じた訴訟費用は、第一、二審とも右原告三名の負担とし、その余の一審原告五名と一審被告との間に生じた控訴費用は、右原告五名の負担とする。

事実

一  一審被告は、昭和五二年(行コ)第一九号事件につき、「原判決を取り消す。一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。」との判決を求め、同第二二号事件につき、「本件各控訴を棄却する。控訴費用は一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

昭和五二年(行コ)第一九号の一審原告らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は一審被告の負担とする。」との判決を求め、同第二二号事件の一審原告らは、「原判決を取り消す。一審被告が一審原告らに対して昭和三七年六月一三日付でなした原判決別表(一)C欄記載の各懲戒処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、左記のほか、原判決事実摘示中一審原、被告に関する部分と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決三四枚目表一三行目から同裏二行目までを、「なお右の各職場交渉は、市役所職員全体に共通する基本賃金引上げ等の第一次統一要求を実現するための闘争手段の一環としてではなく、あくまで、各職場固有の事項に関する第二次統一要求を解決するために、地公法五五条あるいは福岡市の労使慣行に基づいて、当該課の職場委員を中心に所属長も了解のうえ行われたものであり、しかも、職場要求のうち所属長の権限を越える事項については、組合側より所属長に対しそれについての回答を求めたわけではなく、解決権限のある人事部局への意見の具申を要求したに過ぎない。」と改める。

(二)  同五六枚目表四行目の「明らかである。」に続けて、「例えば、本件闘争を企画した共闘会議指導部の役職との関連で本件処分をみた場合、一方では、事務局次長の地位にありながら何ら問責されていない者や、副議長の地位にありながら単なる戒告という軽微な処分にとどまつている者があるのに対し、他方では、単なる執行委員であつて賃金の調査と資料収集等を任務とする給与調査部長の地位にしかない一審原告西岡に対して、免職という最も苛酷な懲戒処分がなされているのである。」を加える。

(三)  同別表(一)C欄記載の各「減給」をいずれも「減給(2/10)」と改める。

(四)  〈証拠関係略〉

理由

一請求原因事実については、本件処分の効力の点を除いて、当事者間に争いがない。

二一審被告の抗弁事実(本件処分理由)についての当裁判所の認定及び判断は、左記のほか、原判決六七枚目表五行目から九七枚目表一三行目までの記載と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決六七枚目裏三行目の「証人浜崎周良の証言」を「原審における一審原告浜崎周良の本人尋問の結果」と訂正し、同裏一〇行目の「同第七五号証、」を削除し、同六八枚目表二行目の「阿部誠」を「安部誠」と、同七二枚目表一二行目の「が決まつた」を「で決まつた」と、それぞれ訂正する。

(二)  同七四枚目裏二行目の「被告の主張する」から同五行目の「ると、」までを、「前記乙第七六号証中に、水早も出席していた旨の西津茂美の陳述記載部分があるけれども、この部分は原審における一審原告浜崎、同水早(第二回)の各本人尋問の結果に比照したやすく信用し難く、他に右出席の事実を認めるに足る証拠はない。却つて、右各本人尋問の結果によると、」改める。

(三)  同七九枚目表一二行目の「阿部誠」を「安部誠」と同八五枚目裏一一行目の「交渉再会」を「交渉再開」と、それぞれ訂正する。

(四)  同八九枚目裏一二行目から同九〇枚目表七行目までの記載を削除する。

(五)  同九〇枚目裏九行目から同九一枚目表一行目までの記載を削除し、その代わりに、「一審原告らは、右の点につき、右職場交渉はその相手方である所属長も了解のうえ行われたものであり、しかも、職場要求のうち所属長の権限を越える事項については、所属長に対しその回答を求めたわけではなく、解決権限のある人事部局への意見の具申を要求したに過ぎない旨主張するけれども、前認定の如く、右職場交渉は、多数の組合員らが所属長の執務室に突然押しかけ、所属長の退室要請を無視して同所に長時間とどまつて喧噪をきわめたものであり、要求事項についても大部分が所属長の権限を越えるものであつて、到底所属長の了解の下に適法に行われたものということはできない。」を加える。

(六)  〈省略〉

(七)  〈省略〉

三次に、一審原告らの再抗弁(法律上の主張)について順次検討する。

1  本件争議行為の評価

本件職場大会、職場交渉及び二月二二日の座り込みは、少なくとも福岡市の業務の正常な運営を阻害する同盟罷業であつて、典型的な争議行為であるといわなければならないが、二月二六日の座り込みについても、共闘会議の指令によるいわゆる一斉休暇闘争であつて、その実質は右の争議行為に該当すると認めるべきである。

ところで、一審原告らは、非現業地方公務員の争議行為を禁止している地公法三七条一項の規定は、労働基本権を認めた憲法二八条に違反する無効なものであるとか、仮に無効でないとしても、本件職場大会等は地公法三七条一項の禁止する争議行為には該当しないなどと主張する。

判旨しかしながら、右の点については、既に、最高裁判所大法廷が昭和五一年五月二一日の判決(刑集三〇巻五号一一七八頁)において、地公法三七条一項は一切の争議行為を禁止するものであり、かように解しても、それ自体としては憲法二八条に違反するものではない旨明確に判示しているところであり、これに先立つ最高裁判所大法廷昭和四八年四月二五日判決(刑集二七巻四号五四七頁、国公法九八条五項の合憲性肯定)、その後に続く同大法廷昭和五二年五月四日判決(刑集三一巻三号一八二頁、公労法一七条一項の合憲性肯定)及び同第三小法廷昭和五三年七月一八日判決(民集三二巻五号一〇三〇頁、公労法一七条一項につき同旨)等一連の判決に照らして、公務員の争議行為を一律に禁止する規定を合憲とする最高裁判所の判例は、現時点においては、疑問の余地なく確立するに至つていると解せられる。

従つて、審級別の訴訟制度の下においては、最高裁判所の有する判例統一機能及び法的安定性の観点からして、下級裁判所としては、最高裁判所の判例の趣旨に明らかに不合理な点があるなど特段の理由がない限り、右判例を尊重し、これに従うべきものであるところ、右判例に対する一審原告らの批判的主張を十分に検討してみても、いまだ右特段の理由があるとは認められない。

そうすると、本件争議行為に関与した一審原告らは、地公法三七条一項に違反したものといわなければならない。

2  議場封鎖行為及びわいせつ映画上映観覧行為の評価

この点に関する当裁判所の判断は、原判決一〇九枚目裏二行目から一一二枚目裏一三行目までの記載と同一であるから、これを引用する(但し、同一一〇枚目表三行目の「から、」以下同五行目の「許される」までを削除し、同一一二枚目裏七行目の「職場交渉」を「争議行為」と改める)。

3  本件処分の効力について

判旨叙上の如く、本件争議行為、議場封鎖行為及びわいせつ映画上映観覧行為については、いずれもこれに関与した一審原告らに一審被告主張の懲戒事由(地公法二九条一項一号、三号該当)が存するというべきであるところ、地公法二九条によれば、懲戒処分として、戒告・減給・停職・免職の四種が定められているが、そのいずれを選択するかは、懲戒権者たる一審被告の裁量に委ねられているものであつて、一審被告が裁量権の行使としてなした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠き裁量権を濫用したと認められるものでない限り、違法とはならないものと解すべきである(最高裁判所第三小法廷昭和五二年一二月二〇日判決、民集三一巻七号一一〇一頁等参照)。

右の見地に立つて、前記引用にかかる原判決認定の事実に基づき、本件処分が社会観念上著しく妥当性を欠くものと認められるか否かについて検討する。

先ず、本件争議行為は大幅な賃上げ等の要求をめぐる組合と福岡市当局との団体交渉の行詰りを打開することを主目的としたものであるが、右団体交渉に関する福岡市当局の対応については、必ずしもすべて適正であつたとはいいきれないとしても、正当な理由なく団交約束を一方的に破棄したり、意図的に回答を引き延ばしたりするが如き不誠実な点があつたとは認められない。これに対し、本件争議行為のうち、職場大会(筥松公民館関係を除く)は、昭和三七年二月一日から三月五日までの間八回にわたり、概ね毎回始業時の午前九時頃から午前一〇時ないし一一時半頃まで、福岡市役所本庁舎正面玄関前に三〇〇名から一、〇〇〇名近くの職員らを集め、当局の再三にわたる解散勧告、解散命令を無視して行われた大規模なもので、しかも殆んどの場合、大会開始前に市庁舎各出入口に職場大会への出席を説得するためのピケッテイングが実施された関係で、大会に出席しなかつた職員もそのまま勤務に就くことなく近くの商店街などに屯していたところから、職場大会開催中は、共闘会議によつて窓口業務のために配置されていた若干の保安要員を除いて、殆んどの本庁職員が勤務を放棄していたというものであり、筥松公民館における職場大会を含めて、右の如き職場大会が長期間にわたり、回を重ねて大規模に行われたことにより、福岡市の業務が少なからず阻害され、市民全体の共同利益が害されるに至つたことは否定できないところである。また、職場交渉については、同年二月一四日、一五日、一六日と三日間にわたり、多数の組合員が集団交渉を要求して各自の職場を放棄し、一般職員の執務室と衝立一つで仕切られた各局ないし課の局長、次長、課長といつた所属長の執務室に突然押しかけ、右所属長らに対して権限外の事項について執拗に回答を迫り、同人らの退室要請を無視して長時間とどまつて喧噪をきわめたというものであり、なかには課長を二時間近くも立たせ、同人の気分が悪いとの訴えを無視したまま吊るし上げたという苛酷な行動もとられていたのであつて、かかる行き過ぎた悪質な交渉態度は例年にないもので、福岡市における労使慣行ないし地公法五五条に基づく交渉申入れなどといえたものではなく、それによつて所属長のみならず一般職員の職務に及ぼした影響は深刻なものであつたと認められる。さらに、座り込みについても、同年二月二二日と二六日の二回にわたり、市長に直接団体交渉を求める組合員ら数十名が市長室前の廊下付近で同市長の解散命令を無視して長時間座り込み、各自の職場を放棄したというものであり、その態様が廊下の両側に一列に座り込み他人の通行にはほぼ支障がない程度のものであつたとしても、それによつて生じた業務阻害の結果及び市長の庁舎管理権に対する侵害の事実は、決して軽視することのできるものではないと考えられる。これに加え、前記議場封鎖行為及びわいせつ映画上映観覧行為が、市役所職員としての市民に対する信用を著しく失墜させ、又は職員全体の不名誉になつたことは、明らかといわなければならない。

しかるところ、本件職場大会に二回、職場交渉及び座り込みに各一回関与した一審原告宮本については戒告、本件議場封鎖に二回関与した一審原告牧、同原田、同池見についてはいずれも減給(2/10)一月、本件職場大会に二回及びわいせつ映画上映観覧に関与した一審原告宮崎については減給(2/10)二月という各懲戒処分判旨がなされているのであるが、前記の如き諸事情を総合勘案すれば、右の各処分は相当であると認められ、これらの処分が地公法二七条一項及び五六条に違反し、社会観念上著しく妥当性を欠き、懲戒権者に委ねられた裁量権を濫用してなされたものとは到底認めることができない。

次に、本件職場大会に七回、職場交渉に二回及びわいせつ映画上映観覧に関与した一審原告水早、本件職場大会に八回、職場交渉に一回、座り込みに一回及びわいせつ映画上映観覧に関与した一審原告浜崎、本件職場大会に五回(うち一回は筥松公民館におけるもの)、職場交渉に三回、座り込みに一回、議場封鎖に一回及びわいせつ映画上映観覧に関与した一審原告西岡については、いずれも免職処分がなされているのであるが、懲戒処分のうち免職処分は、被処分者の公務員たる地位を喪失せしめるという他の処分とは質的に異なつた重大な結果をもたらすものであるから、その選択にあたつてはことのほか慎重な判断が要求されなければならない。

判旨そこで、右水早ら一審原告三名の情状について、いま少しく検討してみるに、同人らは、共闘会議の議長、事務局長あるいは給与調査部長という中心的な幹部組合員として、本件争議行為全般の企画、実行につき指導的役割を担う立場にあつたのみならず、概ね、職場大会、職場交渉等争議行為の現場に姿を見せ、参加組合員らを積極的に指揮、煽動したものであり、また、市従連の執行委員長、書記長あるいは執行委員という地位にありながら、組合活動のための事務所として福岡市から貸与を受けている市従連書記局会議室においてわいせつ映画を上映観覧し、これが新聞、雑誌等に報道され、さらに、一審原告西岡は議場封鎖にも加わつたのであるから、これらの行為に関する右三名の責任は、前記その余の一審原告らに比較して、はるかに重大であるといわなければならない。

一審原告らは、一審被告が従前の執行部にもまして組合の自主・独立性を強調していた水早執行部のメンバーだけに対して、いきなり免職処分をなしたのは、それまでの執行部の行つた職場大会等に対する不処分の措置に比較して、明らかに不公平であつて、団結権侵害の意図を有するものである旨主張し、〈証拠〉中には右主張に副う部分がみられ、本件前の昭和三六年に行われた職場大会等に対して何らの懲戒処分もなされなかつたことは、一審被告もこれを争わないところであるけれども、前記のとおり、昭和三六年に行われた賃上げ要求のための争議行為は、その態様において、行き過ぎた悪質な職場交渉を含んでいなかつたものであるしこれに加えて、議場封鎖やわいせつ映画上映観覧の如き信用失墜行為をも参酌すれば、一審原告三名に対して、いきなり免職という厳しい懲戒処分を選択したとしても、このことから直ちに団結権侵害の意図を推認することはできず、右主張に副う各証拠はたやすく措信し難い。また、一審原告らは、本件における懲戒処分の量定について、各人のそれを比較すると著しく公正さが欠けている旨主張し、その一例として、本件闘争を企画した共闘会議事務局次長の地位にありながら問責されていない者や、副議長の地位にありながら単なる戒告という軽微な処分にとどまつている者があるというけれども、右事務局次長らが右一審原告三名のそれに匹敵するような違法行為をしたのであればともかく、そのような事実を認め得る証拠はないのであるから、単純に組合員としての地位と処分の結果のみを比較してその軽重を論ずるのは相当でなく、他に、一審被告が右一審原告三名に対してのみ、ことさら不公正、不利益な処分をしたものと認めるに足る証拠はない。

判旨従つて、前記の如き一審原告三名の本件各行為の性質及び態様等諸般の事情を総合勘案すれば、同人らに懲戒処分の前歴が認められないことを斟酌しても、なお、本件免職処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、懲戒権者に委ねられた裁量権を濫用してなされたものとまでは認めることができない(なお、本件免職処分につき、労基法二〇条一項違反をいう一審原告らの主張は明らかに失当であつて、採用することができない)。

四以上によれば、一審原告らの本件処分の取消を求める請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却すべきものである。

よつて、原判決中、一審原告宮崎、同牧、同原田、同池見、同宮本の本訴請求を棄却した部分は相当であつて、同原告らの本件控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却すべきであるが、一審原告水早、同浜崎、同西岡の本訴請求を認容した部分は不当であるからこれを取り消し、同原告らの本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条本文、九六条前段、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(高石博良 谷水央 足立昭二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例